風張林道と玉川上水
東京一の激坂コースとして有名な風張林道を走破してきた。今まで登った峠の中で最も辛かったが、なんとか登ることができた。道中に通った玉川上水がとても気持ち良く、これは発見だった。
奥多摩方面に向かうには多摩川のサイクリングコースを走るのが定石だが、敢えて玉川上水を走ることにした。玉川上水は歴史的には羽村から都心の四谷までの流路なのだが、下高井戸から下流は多くの区間が暗渠化されているので、散歩やサイクリングを楽しむなら下高井戸から上流ということになる。今回もそのコースを辿って、三鷹、小金井、小平、立川などを通り抜けて羽村まで進んだ。
玉川上水の良いところは、気分に応じて歩道と車道を選べるところだ。ペース良く進みたいなら脇の車道を通ればよいし、自然の雰囲気を楽しみたいなら未舗装の歩道部分を走れば良い。歩道部分はちょっとしたダートコースのようになっていて、走っていて楽しい。
拝島駅を抜けたあたりからはダートコースというよりはグラベルコースのようになってきて、フィールドアスレチックっぽいノリで楽しめる。道中でずっと木や草や花の香りを楽しめるのも良い。日陰なのも夏場には助かる。時間はかかるが、多摩川サイクリングコースを走るよりは満足度が圧倒的に高い。適当に走っていたらいつの間にか福生の横田基地まで来ていた。
せっかくなので、ちょっと足を伸ばして、玉川上水の起点まで行ってみた。玉川上水の工事を主幹した玉川兄弟の像がある。普通の河川は上流が細くて下流が太いものだが、上水は上流が太くて下流に行くにつれて細くなっていくというのが面白いものだ。
玉川上水の起点のすぐ近くで、狭山湖と多摩湖に水を供給する導水管の起点がある。子供の頃から知っている二つの貯水地の水源がどこなのか考えたことがなかったが、玉川上水から引いていたらしい。そんな蘊蓄を心に留めつつ、水門の脇で昼食にした。たんぱく質が足りないので豆腐生喰い。
その後、五日市街道やら秋川街道やらを通って、五日市方面に向かった。特に五日市を抜けると、檜原村に入る。檜原村に入ってすぐにある休憩所で休みつつ用を足すことにしている。
その先にすぐ村役場があり、そのすぐ先にある分かれ道でどちらに行くかが運命の分かれ目だ。どちらにしろ山道なのだが、左は都民の森を経由する風張峠コースで、右は好事家しか行かない風張林道コースだ。
風張峠もそこそこ大変なコースだったが、今回はより厳しいと言われる風張林道を選んだ。東京一と言われるブロンプトンでここを走破できれば大抵の峠を走破できることになるので、ちょっとした自信がつくだろう。そして、ひたすら走って続けて風張林道に向かう。檜原村に入ってからはずっと登りだ。
この都道205号と分かれる分岐を過ぎると、風張林道に向かう一本道になるのだが、まだ最奥の風張林道ではない。北秋川に沿ってまだまだ登り続けなれればならない。
何だか行き止まりっぽいところに来ると、「檜原きのこセンター」の看板がある。そして振り返ると、恐ろしい坂が見えるではないか。ここから先が真の風張林道である。4kmと長くはないコースだが、平均斜度が12%くらいあるらしく、のっけからやばい勾配になっている。ここまで来るのにすでに70kmくらい走っているので、これを見ただけで挫けそうになったが、せっかく来たなら走破しないことにはどうしようもない。
で、殿下の宝刀39T/18Tの乙女ギアを出して、地道に登り始めた。激坂コースを走破するコツは、できるだけ立ち漕ぎせず、シッティングのままゆっくりと漕ぎ続けることだ。それでどの峠も今まで乗り越えて来られた。しかし、この峠はやばい。斜度20%くらいの区間が続くところでは、シッティングだけでは推進力が足りず、ダンシングしてかつハンドルを握り込んで腕と背筋で体を押し下げないと登っていけないのだ。それが何度も何度も出てきて、その度に挫けそうになる。
道中の半分も行かない地点で、件のきのこセンターがある。ここまでは片手運転で何とか写真を撮れたが、ここから先はそんな余裕はなかった。
きのこセンターから先はまさに林道といったコースで、勾配は急だし、道は狭いし、路面は濡れていて滑りやすいしで、本当に辛かった。何度も諦めかけたが、ここで諦めても後悔するよなーとか思いながら踏みとどまり、ひたすら進んだ。足つきこそしなかったが、蛇行運転で実質勾配を下げる作戦は普通に使いまくった。しかしそれも道が狭いところではできないので、もうダメかと思ったのが何度もあった。途中でちょいちょい出てくる斜度10%とかの区間が休憩に感じた。そこでできるだけゆっくり漕いで筋肉のATPを回復させつつ、なんとか次の波を乗り越えるような、文字通りの自転車操業を続けていた感じだ。
記憶もあやふやになるほど心身が追い込まれていたが、なんとかゴールにはついた。着いた瞬間に倒れ込んだ。急勾配に比べてギアが重すぎたために、心肺は追い込まれなかった反面、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。特に背筋が攣りそうだった。
林道なので頂上に記念碑などもなく、平日なので他のサイクリストもおらず、あっけない幕切れだった。しかし、なんというか、確かな充実感があった。やればできる子なのだと、自分で自分を自然に認められる瞬間であった。
風張林道を抜けるとすぐに風張峠経由の奥多摩湖周遊道路に合流して、あとはひたすら下れば奥多摩湖まで行ける。車やバイクで何度か通った道だが、自転車で通るのはまた格別だ。ブロンプトンは長い急坂でブレーキをかけ続けると摩擦熱でタイヤ内の空気が膨張して破裂する恐れがあり、実際和田峠でそれを食らったことがあるので、ちょいちょい休憩して冷ましながら下った。下りなのに休憩を要するというのが逆説的だ。
奥多摩湖の湖畔をぐるっと一周した。すでに足は売り切れていたので、消化試合のつもりでゆっくりと走った。気温が低めなので気持ちよかった。
今回の旅は熾烈だった。目的地である峠は激烈であったし、しかも現地まで自走往復して全部で162kmの旅程だったので、さすがに疲労困憊になった。でも、何かを乗り越えた感がある。この旅程をこなせるなら大抵のところは行けるだろうと。
今回の学びとしては、風張林道クラスの激坂では、39T/18Tの変速比2.16(ロードバイクの1.34に相当)のギアでは重過ぎるということだ。一定以上の斜度だと体重では回せなくなる。たとえ脚力を向上させて強く踏み込んだとしても体が浮いてしまって、それを抑えるために上半身の力を使う羽目になり、それは持続性がない。平均斜度12%でこれなのだから、平均斜度16%と言われる暗峠なんて絶対に無理だ。
斜度と登坂抵抗は比例するので、急坂では登坂抵抗が全抵抗において支配的だとみなすと、12%できついなら、16%に挑むにはギア比を12/16=0.75倍以下にしなければならない。つまり変速比1.625以下ということだ。これを実現するには、34T/22T=1.54くらいの組み合わせを実現するしかない。現有のクランクアームはBCD130なのでフロントの最小ギアは38Tまでになる。よって、クランクアームをBCD110に変えるか、トリプルクランクにしてアームの内側に小さいチェーンリングをつけることになるだろう。また、今のフレームではリアに18T以上をつけると干渉するので、ワッシャーを噛ませてフレームを広げた上で、22Tをつける必要がある。リア2速構成のままでは11Tから22Tにはギアが上がらないだろうから、3速化もしくは4速化が必須だ。改造に全部で15万円くらいかかりそうな予感がする。そこまでして峠を攻めたいかどうかは、よく考えないといけない。
追記:登坂抵抗は重力にも比例するので、体重と車重を下げるという手もあるかな。今67kgほどの体重を60kgまで落として、荷物入れて15kgほどの車重から荷物を抜いて12kgほどにすれば、82kgから72kgに減るので、0.88倍になる。そうするとギア比は0.85倍で良くなるので、38T/22Tでもなんとかなる。登坂専用にしてリアは15T+22Tとかにすれば2速のままでもいけるから、ワッシャーだけ買えば改造できるか。うむむ。まずは体重を減らすことから始めようか。